「泣いてたの?」


涙の筋をみてケンジは心配そうに私を覗きこんだ。


「恐い夢でも見たみたい。」


そう言ってケンジの胸に顔を埋めた。

涙の訳をなぜかうまく伝えられなくて、私はケンジに嘘をついた。


「どんな夢?」


おもしろがってケンジは私を胸から離して問いかける。

「もう平気だから。大丈夫だよ。」


私はケンジの問いから逃げるために、一度離れた胸に、
もっと顔を押し付けた。

恐い夢ではなかったはずだ。

でも、胸の奥に何かがつかえたような感覚だけが残っている。

そして…とても大切な夢だった気がする。

私は夢のカケラを胸に残したまま、ケンジの胸の香りを吸い込んだ。




photo by 伯瑛堂
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