【チケット】



やむ気配のない雨が映画館へと客を誘う。



朝からの雨のおかげで、映画館はすでにたくさんの人が入っているようだった。

入口には色とりどりの傘が立て掛けられ、ご主人様の帰りを待っている。


入口から一歩入ると、館内にはポップコーンの香りが
ふんわりと充満していて、
薄暗い光と静かにかかる曲で、一気に日常から遠ざかる。

映画館に入るなり、ケンジは肩を落とした。


「上映時間までまだかなりあるな…。」


観る予定だった映画は、すでに始まっていた。

ここに来るまで渋滞していたため、
予想以上の時間がかかったからだろう。


「せっかくだから待っていようよ。」


私は落ち込んだケンジをなんとか励まそうと、なるべく明るく言った。

ケンジは入口をふりかえり、軽くため息をついた。

雨はさっきよりさらに強くなり、窓ガラスをうちつけている。

ケンジはそうだね、と言うと

「何か飲み物でも買ってくるよ。」


と、小走りで売店まで走った。


特別観たい映画だったわけではないが、私はまだ、
この映画館の雰囲気から抜け出したくなかった。

いつきてもそうだけれど…映画館にはなにか起こりそうな、
非現実的な雰囲気がある。

まるで自分も、映画の主人公になったような気分に…





photo by pancakeplan
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