【偶然と必然】



少し重い扉を開けると、赤い座席が薄明かりの中にびっちりと綺麗に並んでいた。

大半は既に人が座っていて、映画の人気ぶりがうかがえる。

私は通路側の、下から三番目のはじの席へ座った。

スクリーンが見えやすい真ん中付近の席とは違い、混んでいても私達の席の周りには人がいない。

いつも見やすい席で見る私にとって、スクリーンを見上げるというのは
どうも違和感を感じる。

が、タダで手に入れたチケット。

文句は言わない事にした。


「寝てたら起こしてね。」


ケンジは早くも『お昼寝』宣言をして、フカフカのシートにドカッと座った。

その目は、早くもいつもの三分の二の大きさになり、椅子めいっぱいに深く腰かけている。


私は大袈裟に、ふぅ、と肩をすくめた後、同じくフカフカのシートに腰をおとす。


ふと隣の席をみると、映画のパンフレットが無造作に何枚も重ねられていた。

ドリンクホルダーには飲みかけのアイスコーヒーもある。


隣の席に他人が座るのは、ちょっとためらうなぁ…。

しかし予想以上の人の入りだったため、
私は映画が始まってから空席へ移動しようと思っていた。



館内に流れるBGMが止まり、照明は徐々に光りをおとしていく。


この瞬間が好きだ。


ふぅっと訪れる静寂と闇。

その瞬間、現実からこの空間だけ切り取られて、映画の一部になる。

私はケンジに一度振り返って、静かに見てなさいよ?とだけ言うと、大きなスクリーンを見つめた。






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