結局私は
文句一つを言うタイミングも見つけられないまま、彼の隣にいた。

時々スクリーンからもれる光りで
彼が鮮やかにうつしだされるから再び顔を確認したけれど
(正確には、ちょっと睨んだりもしたんだけど)

やっぱりその顔には
懐かしさがあった。



エンドロールが流れ始めた。
と、同時に私はすぐに席を立った。

隣の失礼な男が、チラッとこっちをみたような気がしたけれど、目は合わせなかった。

ケンジが目を閉じているのだけ確認して、重い扉を開く。。。



「すごい感動しちゃったぁ。」


「泣けるよねぇ。」


逃げるようにして来た化粧室には、先程上映していたパンフレットをにぎりしめた女性が数人いた。

涙で目が赤くなっている女の子を横目に手早く化粧を直す。


「私にも運命の相手いるのかなぁ〜…」


隣にいた、茶髪にミニスカートの女の子が呟いた。

運命…

そういうものを期待した時期もあったなぁ、とため息をつく。

突然、空から落ちてくるみたいな出会い。

29にもなれば、そんなことがめったに起きないことくらいわかる。

けれど…



目を赤くした女の子に昔の自分を重ねる。


想うことはとてもエネルギーがいる事だ。

傷つき、傷つけられ、求め、求められ…

時には一人で生きていくより孤独になる。

私は…

そういう恋から逃げてきた。

ここぞという時にふみきれない。

…いつの間にか私は、想う事に…情熱から逃げているのだ。

そうすることで、自分を守っているのだろう。

気がついたら、傷つかない道を選ぶようになっていた。

ケンジの顔が浮かぶ。

運命の人…。


もちろん情熱だけが全てではない。

今の穏やかな気持ちは、確実に私を癒してくれている。


ケンジは私に、目に見えるほどの情熱を向けてくれる。

それに応えていくこと。

それが私の幸せだと思う。


29の誕生日を迎えて再確認する。

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