あれから…あの失礼な男はすぐに出口へ行ってしまった。

『俺のだから。』

あの時は突然すぎて意味がわからなったから、追いかけることもできなかったけど。

思いおこせば…

私が拾ったチケットは、彼が落としたものだった…という意味だったんじゃないかと今更思った。

そうすればあの時の彼の顔も、台詞も、つじつまが会う気がした。

顔から火が出る、とはこの事を言うんだろう。

私はチケットを落とした本人を目の前に、何食わぬ顔でタダで映画を見ていたのだ。


映画館ですっかり睡眠を取ったケンジには、失礼な…いや。今思えば、失礼なのは私になるけど。

あの男の話ができずにいた。

ヤキモチ焼きのケンジに無駄な心配はかけたくなかったし。

…正直…
なんだか言い出せなかった。

なんでだかわからないけれど。


「千世、聞いてる?」


ぼぅっとしているのを見兼ねてケンジが不機嫌そうにワインを飲み干す。


「なんかね、疲れちゃって。」


慌てて言い訳をすると、ケンジはため息と一緒に、
昨日あんま寝かせてないもんね、とニヤリとした。

私は、バカ…と笑って同じようにグラスを空ける。

飲み干したあと、胸がジーンと熱くなった。

酔いが回ってきたかな…

私は、空になったグラスを見つめ、彼の…失礼な男の顔を思い出していた。

照明のせいだろうか。
グラスの底に残ったルビー色の液体がキラキラと輝いていた。




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