【交錯する現実】



優しい風が、花の甘い香りを運んでくる。

私は目の前にある広い背中の後を追う。

時折、彼は足を止め、少し私を振り返り、また歩き出す。

彼の袴はフワフワと風にのり、それはまるで蝶のように美しいと思った。


「今日は実にいい天気だ。」


空を見上げて彼は微笑む。


「はい。」


私はその姿にドキドキして、うまく言葉が返せない。

そんな私を知っているのか…彼は再び振り返り手を差し出した。

私がそっと手を握ると、ぐっと引き寄せられた。


「誰も見てはいるまい。」


彼は恥ずかしそうに微笑んだ。

そのまま、私達はしばらく土手を歩いた。

辺りにはあらゆる春の花が咲き誇り、小さい花も大きい花も、
みな同じように春の訪れを喜んでいるようだ。


「花はいい。」


彼は目を細めて周りを見た。


「おまえの好きな花は…なんだ?」


突然質問されて、私は思わず足を止めた。

好きな花…好きな花…
そういえば考えた事もなかった。

花の名前なんてあんまり知らないし…。


と、足元に黄色い小さい花が咲いていることに気がついた。


「たんぽぽ…です。」


とっさにその名前を口にする。

しかし、口にしてしまってから、
もう少し華やかでかわいらしいものにすればよかったと後悔した。

案の定、彼は目を丸くして私を見た。

けれど


「おまえは変わっているな。」


と言って目を細めて私の髪を撫でた。

さっき花達を見ていたような優しい瞳だった。

next novel top