ファッションアドバイザー。
聞こえはいいけど、ただの販売員だ。
私は街中にある大型店舗内にある洋服屋で働いている。
責任者、なんて肩書きを押し付けられているけれど
実際は後輩のヤラかした後始末に追われているだけ。

ケンジとは、いわゆる上司と部下の関係にある。

「いらっしゃいませ。」

何度となく口にしたせいで
最近ではあまり心に響かない。

売上データとにらめっこする毎日は
キラキラ輝くものからは既に縁遠いものになっている。

ふとシフトを見ると、今日ケンジは休みになっている。

顔をあわせなくて済むのは救いだった。

私はいつも通りの笑顔を作り、いつも通りの接客をする。
「いつも通り」であるために。




仕事が終わると、早々とマキがやってきた。


「千世!行くよ!!」


半ば無理やり連れ出された私は、化粧も直す暇さえも与えられなかった。




「ここよ、ここ。」


30分ほどかけて連れてこられた店は、大人びた感じのバーだった。
入り口から入って正面にはグランドピアノが置いてあり
既にピアニストが心地よいメロディーを奏でていた。
店内は濃い茶色で統一されており、アクセントとしてオレンジとピンクの光が
暗闇を一層際立たせている。


いい店だね、と言うと、マキは得意そうに微笑んだ。


「で、まず何飲む?私はマティーニ。ここカクテルがおいしいんだって。」


えぇっと…
悩んでいる私をよそにマキは待ちきれずに店員を呼ぶ。

まったく…。せっかちなんだから。

だいたいいっつもマキは…


そう思った時だった。

見覚えのある顔が、近づいてきたのだ。

それは二度目に会う、彼の顔だった。






photo by RELISH
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